小池 直之 | 教員紹介 | 東京理科大学 理学部第一部数学科(こいけ なおゆき)

連絡先

E-mail: koike@rs.tus.ac.jp(SPAM対策の為アットマークは全角です)

研究分野

微分幾何学・幾何解析学

研究内容

リーマン対称空間内の部分多様体および平均曲率流(より一般に曲率流)と呼ばれる部分多様体の時間発展(リーゾナブルな変形)について主に研究しています。その研究方法は次の通りです。

(I)外の対称空間がコンパクト型とよばれる非負曲率をもつ空間の場合。
まず、ある無限次元ヒルベルト空間からその対称空間へのリーマン沈めこみを考え、それによりその部分多様体および平均曲率流を無限次元ヒルベルト空間にリフトします。そのリフトしたものをその無限次元空間が平坦であることを利用して巧妙に調査し、その調査結果を用いて元の部分多様体および平均曲率流に関する結果を導き出すという方法です。この研究方法は、コンパクト型対称空間内の部分多様体およびt平均曲率流をその空間の線形化である無限次元ヒルベルト空間内の研究に還元して行うというものと解釈されます。

(II)外の対称空間が非コンパクト型とよばれる非正曲率をもつ空間の場合。
まず、外の対称空間,部分多様体およびおよび平均曲率流を複素化することにより、無限の彼方に消えうせていた幾何構造を捉えます。次に、ある無限次元(アンチケーラー)擬ヒルベルト空間からその複素化された対称空間への擬リーマン沈めこみを考え、それによりその複素化された部分多様体および平均曲率流を擬無限次元ヒルベルト空間にリフトします。そのリフトしたものをその無限次元空間が平坦であることを利用して巧妙に調査し、その調査結果を用いて元の部分多様体および平均曲率流に関する結果を導き出すという方法です。

主要論文・著書・学会発表

  • The mean curvature flow for invariant hypersurfaces in a Hilbert space with an almost free group action, Asian J. Math. (to appear).
  • A holonomy invariant anisotropic surface energy in a Riemannian manifold, Differential Geom. Appl. 44 (2016) 98-121.
  • The inverse mean curvature flow in rank one symmetric spaces of non-compact type, Kyushu J. Math. vol. 69 (2015) 259-284 (with Yusuke Sakai).
  • On the indices of minimal orbits of Hermann actions, Hokkaido Math. J. vol. 44 (2015) 251-275.
  • 対称空間内の等焦部分多様体と無限次元幾何, 数学・論説 (日本数学会編集) vol. 67 (2015) 26-54.
  • The Regularized Mean Curvature Flow for Invariant Hypersurfaces in a Hilbert Space, Seoul ICM 2014, Satellite Conference on Real and Complex Submanifolds, Springer Proceedings in Mathematics & Statistics vol. 106 (2015) pp 437-452.
  • Reseach of submanifolds in symmetric spaces by using the complexification and the infinite dimensional geometry, SUT J. Math. (Fiftieth Anniversary Issue) vol. 50 (2014) 103-129.
  • The complexifications of pseudo-Riemannian manifolds and anti-Kaehler geometry, SUT J. Math. (Fiftieth Anniversary Issue) vol. 50 (2014) 271-295.
  • A Cartan type identity for isoparametric hypersurfaces in symmetric spaces, Tohoku Math. J. vol. 66 (2014) 435-454.
  • The constancy of principal curvatures of curvature-adapted submanifolds in symmetric spaces, Differential Geom. Appl. vol. 35 (2014) 103-113.
  • Homogeneity of infinite dimensional anti-Kaehler isoparametric submanifolds, Tokyo J. Math. vol. 37 (2014) 159-178.
  • Collapse of the mean curvature flow for isoparametric submanifolds in non-compact symmetric spaces, Kodai Math. J. vol. 37 (2014) 355-382.
  • Examples of certain kind of minimal orbits of Hermann actions, Hokkaido Math. J. vol. 43 (2014), 21-42.
  • Collapse of the mean curvature flow for equifocal submanifolds, Asian J. Math. 15 (2011), 101-128.
  • Hermann type actions on a pseudo-Riemannian symmetric space, Tsukuba J. Math. 34 (2010), 137-172.
  • On curvature-adapted proper complex equifocal submanifolds, Kyungpook Math. J. 50 (2010), 509-536.
  • Examples of a complex hyperpolar action without singular orbit, CUBO A Math. J. 12 (2010), 131-147.
  • The homogeneous slice theorem for the complete complexification of a proper complex equifocal submanifold, Tokyo J. Math. 33 (2010), 1-30.
  • On non-existenceness of equifocal submanifolds with non-flat section, Asian J. Math. 12 (2008), 421-441.
  • Complex hyperpolar actions with a totally geodesic orbit, Osaka J. Math. 44 (2007), 491-503.
  • A Chevalley-type theorem for a proper complex equifocal submanifold, Kodai Math. J. 30 (2007), 280-296.
  • The variational formulas for the volume function in the equiaffine geometry, Hokkaido Math. J. 35 (2006), 719-751.
  • A splitting theorem for proper complex equifocal submanifolds, Tohoku Math. J. 58 (2006), 393-417.
  • Actions of Hermann type and proper complex equifocal submanifolds, Osaka J. Math. 42 (2005), 599-611.
  • Complex equifocal submanifolds and infinite dimensional isoparametric submanifolds, Tokyo J. Math. 28 (2005), 201-247.
  • Submanifold geometries in a symmetric space of non-compact type and a pseudo-Hilbert space, Kyushu J. Math. 58 (2004), 167-202.
  • On proper Fredholm submanifolds in a Hilbert space arising from submanifolds in a symmetric space, Japan J. Math. 28 (2002), 61-80.
  • An extrinsic decomposition theorem and a slant tube theorem for a curvature netted hypersurface, Result. Math. 39 (2001), 245-273.

(その他26編)

卒研・院生の指導内容

・3年生の数研では、リーマン幾何学(加須栄篤著・培風館)の第1章を読んでもらい、ゼミ形式で順番に発表してもらっています。毎回、発表前に1時間程の打ち合わせをして、教科書には、書かれていない具体例、省略されている証明の穴埋め等をした上で、発表をしてもらっています。この本を最後まで読むと微分幾何学の研究者として必要な基礎知識が幅広く修得することができます。

・4年生の卒研では、幾何学的変分問題(西川青季著・岩波書店)を途中を少し飛ばしながら最後までゼミ形式で順番に読んでもらっています。このテキストを読むと幾何解析学の基礎力が身に付きます。ゼミは、次のように進めていきます。毎週一人の方に発表をしてもらいます。発表者は自分で解決できた範囲内で原稿を作成した上、火曜日に私と1時間程度の基本的な打ち合わせをします。このテキストの内容について紹介します。 7つのミレニアム懸賞問題の一つである3次元ポアンカレ予想が、2002年にペレルマンによって解決されました。その解決に用いられたのがリッチ流方程式とよばれるある種の擬放物型非線形発展方程式の解(この解はリッチ流とよばれるリーマン計量の1パラメーター族)の研究です。このリッチ流方程式の研究は、ペレルマンよりも前にハミルトンにより本格的に行われていました。一方、私の研究している平均曲率流方程式も、リッチ流方程式と同種の擬放物型非線形偏微分方程式であり、この解は平均曲率流とよばれる、ある与えられた多様体Mからある与えられたより次元の高いリーマン多様体(N,g)へのはめ込みの1パラメーター族です。各はめ込みの像は(N,g)内のリーマン部分多様体とよばれる図形を与えており、その1パラメーター族は(N,g)内の図形の1パラメーター族を与えることになります。一つシンプルな例を挙げると、Mが円周で(N,g)が2次元ユークリッド平面の場合、初期図形が楕円の境界線の場合、これを発する平均曲率流は小さくかつまん丸くなりながら1点に崩壊します。平均曲率流の研究を利用して、ある条件を満たす図形の存在性を証明したりすることができます。このテキストの前半部では、リーマン多様体上のベクトルバンンドルおよびそのバンドルの接続理論をベースに調和写像(エネルギー汎関数の臨界点)について学べ、後半部では、放物型調和写像方程式とよばれるある種の放物型非線形偏微分方程式について学ぶことが出来ます。その結果、リッチ流、および、平均曲率流を研究するためのベースをつくることができます。

・院生のゼミでは、次のいずれかのテキストを読んでもらいゼミを行っています。

  • Lectures on Mean Curvature Flows, X.P. Zhu著(AMS/IP)(平均曲率流に関する洋書)
  • Semi-Riemannian Geometry-with Applications to Relativity, B. O’Neill著(擬リーマン幾何学・相対論に関する洋書)

その他、平均曲率流等に関する論文も読んでもらっています。

担当科目(年度により変動)

  • 幾何学1・2 (2クラス)
  • 微分幾何学1・2
  • 数学研究1・2

学部学生へのメッセージ

ただ、機械的に定義を理解し、機械的に定理を証明できても何の意味もありません。 それでは、勉強していても楽しくありません。モチベーション0です。 「何故、この概念をこのように定義しようと思ったか?」の背景を理解したり、「この定理が意味することは何なのか?」など、本質的な理解をしながら数学を学んでください。 また、定理の証明は、ただその内容を理解するだけでは読みが浅く、「どのようにしてこの証明を思いついたのか?」を、証明を下からさかのぼって読むなどして分析し、その結果、自分でも自然に思いつく証明なんだなあと思えるところまで掘り下げて読むことが大切だと思います。卒業後、数学の勉強を通じて、各仕事場における様々な問題を、その本質を(きめ細かく)見抜いて、その問題を解決するための可能な限りスマートな道筋を(きめ細かく)組み立てられる力を養ってもらいたいと思います。 大学院志望の方は、論理的思考力をしっかり身に着けることはあたりまえであり、さらに、鋭い数学的感性・独創性を養うことを目標に数学を学ぶと良いのではないかと思います。

また、教員志望の方は、純粋数学系の卒業研究のゼミ等で個別指導を受け、実質的な数学力を身に付けた上、卒業後、生徒に本質的に理解させることが上手な(話力があるということは別です)教員になっていただきたいと思います。ここで、繰り返しになりますが、「本質的に理解させる説明力があること」と「話力があること」は、全く別なことであることに注意していただきたいと思います。逆に、話力は、わざわいです。なぜならば、話力により、理解した気にさせてしまう可能性があるからです。また、教える基本的なテクニック等の技巧的なことは、本腰を入れれば、一日でマスターできることを注意しておきます。

最後に、問題のベターな解答法、定理のベターな証明法とは、どのようなものであるか私の意見を書かせていただきます。ある定理において、「長いが突飛な発想を必要としない証明」と「短いが突飛な発想を必要とする証明」があったとして、どちらがベターであるか? 私としましては、教育的には、前者がベターであると考えております。その証明において背理法が使われているから良くないとか手法的なことはあまり関係ないと思います。背理法的な考えは、普段の生活において無意識に本能で使っているぐらいです。ここで、本能という言葉を使わせていただきましたが、私は、研究において、本能を大事にしています。理屈でできることはたかが知れています。一方、(教育的ということを忘れ)総合的には、2つの証明のうち、どちらの証明が定理の内容の本質を分からせてくれるかということ等を比較することにより、どちらの証明がベターであるかを決めるべきであると考えております。手法を比較することは、あまり、意味がないように思います。

高校生へのメッセージ

ただ、機械的に定義を理解し、機械的に定理を証明できても試験で点数はとれますが、 それでは、勉強していても楽しくありません。モチベーション0です。 「何故、この概念をこのように定義しようと思ったか?」の背景を理解したり、「この定理が意味することは何なのか?」など、本質的な理解をしながら数学を学んでください。 また、定理の証明は、ただその内容を理解するだけでは読みが浅く、「どのようにしてこの証明を思いついたのか?」を、証明を下からさかのぼって読むなどして分析し、その結果、自分でも自然に思いつく証明なんだなあと思えるところまで掘り下げて読むことが大切だと思います。